【夢と金】キングコング西野の新刊を読んで思ったこと
こんにちは、スーさんです
東海大学を経て国内航空会社で働いています
パイロットを目指す人や訓練生を応援するためにブログを書いています
この記事はキングコング西野の新刊【夢と金】を読んで、思ったことやパイロットとして考えたことなどを整理した記事です
「夢か?金か?」という議論をキミの周りの連中は繰り返すだろう。耳を貸す必要はない。あんなのは全て寝言だ。「夢」と「お金」に相反関係はない。僕らは「夢」だけを選ぶことはできない。お金が尽きると「夢」は尽きる。これが真実だ。
と、冒頭からエンジン全開な感じで始まりますが、その内容はとても興味深く、学びになることがたくさんでした。
この本を読んで、航空業界についてや、パイロットとしてのキャリアについてなど、色んな思いが沸々を湧き上がってきました。
参考になるかはわかりませんが、きっと今までと違った角度から航空業界やパイロットの姿を見ることができるので、ぜひ最後まで読んでみてくださいね^ ^
高価格帯にクレームを入れるバカ
とんでもない見出しですが、内容を読めばその理由がわかります。
よく、VIP席が高すぎる!と炎上することがありますが、実際にはVIP席は売り切れになることがほとんど。つまり、クレームを入れる人は、VIP席を買えない人たちです。
飛行機を使った例
多くの人が利用するエコノミークラス。とてもリーズナブルな値段で海外へ旅行することができます。
一方座席数は数席しかないファーストクラスはめちゃくちゃ高く設定されています。
座席数は244席
エコノミークラスは147席
プレミアムエコノミークラスは40席
ビジネスクラスは49席
ファーストクラスは8席
価格は
エコノミークラスは22万5000円
プレミアムエコノミークラスは39万7000円
ビジネスクラスは64万6000円
ファーストクラスは188万円
これが全て売れたとしたら、売上は、9564万9000円
座席数は315席
これを22万5000円をかけると
結果は7897万5000円。。。
不足分は約1667万円
これを全員で負担すると
4万7504円。
約5万円もの割高な運賃を他のクラスの人たちが払ってくれているということ。
つまり、割高なファーストクラスを買ってくれる人がいるからエコノミーがあれだけ安く乗れる。
ファーストクラスの価格やファーストクラスに乗る人に文句は言わず、むしろ、ありがとうございまあす!!という必要あるわけです。(笑)
※他にも要素はありますが、一つのわかりやすい例として紹介されています。
ここから思う今の日本の航空業界
現在、国際線を2つのクラス以上で運航しているのは大手2社のみ。
その他はクラス分けはありません。LCCにも当然ファーストクラスなどはありません。
上記の例で言えば、本来は羽田ーニューヨークを飛ばして、費用を賄い利益を得るには、1億円の売上が必要ということです。
それを、クラス分けのない他の航空会社やLCCがやると、どこかに皺寄せが来るはずです。
乗務員含め社員の待遇が上がらない
一つ目の皺寄せの例は乗務員の賃金が上がらないということ。
飛ばすたびに、多くのコストが係る飛行機の運航。一回の運航で売上が出ないということは、他の費用を減らすか、他のところで別の売上を出す必要があります。
その一つになりうるのが、乗務員を含めた社員の給料です。
企業の目線に立てば、固定費が増えるので、なるべく多くの従業員を雇うことはできない。なので、
- 一人ひとりがよりたくさん飛んでもらう必要がある。
- 一人ひとりの給料を下げる
このように社員の待遇を下げることにつながります。
特に乗務員の待遇を下げるともっと多くの問題が出てきますが、今回その話しは割愛します
お客様に別料金を請求
LCCに乗る上では当然になりましたが、
- 座席指定をすると追加料金
- 荷物の預け入れに追加料金
- 機内で飲食がしたければ購入が必要
これらは、通常よりかなり割高な料金が請求されます。
なぜなら、払ってくれる人からお金をいただくしか、利益を乗せられないからです。
プレミアムとラグジュアリーの違い
次に、プレミアムとラグジュアリーの違いについて見ていきましょう。
- プレミアム
- 競合がいる中での最上位
- 「機能」としての価値を売り、その最上位
- ラグジュアリー
- 競合がいない
- 「機能」ではなく、「意味」を売っている
車で例えると、
プレミアムは、ベンツやBMWなど。
まさに機能(動力性や静粛性など)も優れていて、競合がいる中で最上位の体験ができますし、「ベンツに乗ってる俺、イケてるでしょ?」というブランドも十分です。
つまり、プレミアムは、競合商品よりも最高レベルでいいものということです。
一方、ラグジュアリーは、フェラーリやランボルギーニなど。
フェラーリなどはある意味機能は求められていません。アクセルを踏み込めば時速350キロ出せる機能あったとしても日常生活では使えません。(笑)
つまり、フェラーリを買う人は「時速350キロを出すためにフェラーリを買っている訳ではない。」ということです
フェラーリやランボルギーニなどの車はそれを「所有している」ということだけで意味が生まれます。ベンツやBMWも意味はありますが、フェラーリやランボルギーニとは意味合いが違ってきますよね。
車の性能を比べた結果、フェラーリにたどり着いた訳ではなく、最初からフェラーリを買おうと思って買っているということ。
つまり、「競合がいない」ということです。
ラグジュアリーは機能面で劣るのにめちゃくちゃ高い
ここから、一つ言えることは、「ラグジュアリーの商品は、プレミアムの商品より機能は劣るのに、めちゃくちゃ価格が高い」ということです。
車種にもよりますが、機能面で優れているのは基本的にはベンツですよね。でも、フェラーリの価格はベンツの遥か上。
どういうことでしょう?
それは、「競合がいないから」ということです。
機能面の戦いになれば、比較が生まれます。
この価格で、この機能がついている!といったような。
しかし、ラグジュアリー商品は、その商品自体に意味があるため、比較対象がありません。
プレミアムより機能が劣っていようが、「フェラーリを買う」ということ自体に意味があるからです。
ここから考える航空会社のビジネス
今では、日本の中でも数多くの航空会社が存在しています。
よほどなローカル路線でない限り、複数社が就航し、航空会社は競合他社との価格競争になっています。LCCが台頭してきて、価格競争が激化すればするほど、航空運賃は上がりにくくなり、航空会社の売上はイマイチな伸びになっていくでしょう。
(LCCの台頭で飛行機に乗る人が激増したのもまた事実ですが)
ということは、航空会社はラグジュアリーを提供できない土俵に立っていると解釈することができます。しかも機能面はLCCでない限り、ほぼ一緒です。
顧客の奪い合いはマイレージサービスやサービス、価格などの細かい面でどれだけファンを獲得できるか。ということになります。
「〇〇エアラインでしか体験できないサービス」がない限り、永遠にラグジュアリーを提供できません。
つまり、価格競争から抜け出せず、法人契約やマイレージサービスが圧倒的な大手2社以外はジリ貧になっていますよね。
※法人契約やマイレージサービスだけの問題ではありませんが。
ハイスペックとオーバースペックの違い
満足されるライン
満足を超えて尚、ハイスペックを求めること
- 60点のラーメン600円
- 90点のラーメン800円
- 60点のラーメンを80点にすれば価格を200円アップできるかもしれない。
- けど、90点のラーメンを92点にしたところで、価格アップは見込めない
なぜなら、お客さんにとって
・60点のラーメン→まずい
・80点のラーメン→普通
・90点のラーメン→美味しい
・92点のラーメン→美味しい
- 普通のお客さんは、20点の違いは認識で来ても、90点以上の違いはわからない※プロならわかるかもしれない
- 90点から92点にしたところでお客さんはその違いがわからない
- なので92点にしたところで美味しいラーメンを求めるお客さんにとっては「オーバースペック」ということ
つまり、90点から92点にする努力はお金にならない努力(自己満)ということです。
プロの体操やフィギュアスケートの世界にはプロの審査員がいて、細かい技術の違いで点数が変わってきます。
しかし、商売の世界に審査員はいません。
満足レベルを超えた微差にお客さんは気づくことはありません。
パイロットにとってのスペックとは?
ここで、パイロットにとって求められるスペックを考えていきたいと思います。
- 会社から求められるスペックは機長・副操縦士の審査に合格するレベル
※低評価を受けることがない
ここが最低限必要なレベルと思います。
では、それ以上に技量を上げようと思うのはオーバースペックなのでしょうか?
ぶっちゃけて書くと80点が合格ラインだとして、81点でも、91点でも報酬は増えません。
例えば、どれだけ上手い着陸をしたとしても、報酬は上がりません。
パイロットに求められるのは、安全に着陸することです。
つまり、搭乗するお客さんに対してどんなにいいフライトをしたとしても報酬が上がることはありません。
審査や訓練でチェッカーや教官がどんなに優れた評価をつけたところで報酬は変わりません
つまり、航空会社のパイロットにとって、オーバースペックで報酬が増える仕組みはないとうことです。
【転職市場から考える】パイロットは会社に機能を求められる
機能が優れたプレミアムパイロット、いわゆる「優秀」という意味でのプレミアム。
より優秀(プレミアム)なパイロットはより待遇の良い会社に入り、高い報酬を受けることができます。
基本的な操縦技術に加えて、
- 不安全事象を起こしたことがないパイロット
- コミュニケーションが上手くパイロット
- ネイティブ並に英語が話せる
- どんな環境にも適応できる
このようなパイロットは会社を渡り歩いて自分の報酬をあげていくということかなと思いました。
お金が尽きれば、夢も尽きる
昨今の世の中の情勢で航空業界は大打撃を受けました。
売上が上がらなくなり、固定費がとんでも無くかかる航空業界はまさに、お金が尽きていく状態です。
お金は人材育成や採用、流失防止のための待遇、機材の整備や路線維持にも必要です。
売上がなければ、これらに回せるお金はどんどんなくなっていきます。
今回、キングコング西野の新刊【夢と金】を読んで、本当にそれを痛感しました。
そして、航空業界やパイロットとして思うことに新しい視点が加わりました。
なんだか、今までと少し違う目線で物事を見られるようになった気がします。本を読むとは、こういうことですね。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました!読んで損することはない一冊だと思いますので、気になる方はぜひ読んでみてくださいね!
それでは!